メタ研通信 第3号 2022.07発行

非鉄金属の基礎知識

 このコーナーは令和元年に日本メタル経済研究所が総力を挙げて作成した非鉄金属の基礎知識のレポートを、少しでも皆様に活用していただけるよう、今後順次その一部を連載で紹介するコーナーです。最後まで付き合いいただけますと、上下2部にわたる報告書の概要を章・節ごとに概要を掲載してゆく予定です。報告書本文は販売しております。ご興味のある方はお問い合わせください。

 今回紹介するのは下記の目次の通り、第2章 資源編のうち非鉄金属資源概要の抜粋である。鉱床の分類では火成鉱床を正マグマ鉱床、ペグマタイト鉱床、熱水性鉱床(鉱脈型鉱床、海底熱水鉱床)に、堆積鉱床では機械的堆積鉱床、風化残留鉱床、蒸発岩鉱床に、変成鉱床では接触変成鉱床と広域変成鉱床に分け説明、タイプごとに一部代表的な鉱床の紹介をしている。また、2.1.2. 鉱物の種類では、銅、亜鉛、鉛およびニッケルの鉱石を構成鉱物種について、金属種別、化合物種別に分類し銅(Cu)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、ニッケル(Ni)の順に掲載、一部鉱物は写真を添付している。

2.1. 非鉄金属資源概要

 2.1.1. 鉱床の分類
  (1) 火成鉱床
  (2) 堆積鉱床
  (3) 変成鉱床

 2.1.2. 鉱物の種類
  (1) 銅(Cu)
  (2) 亜鉛(Zn)
  (3) 鉛(Pb)
  (4) ニッケル(Ni)

第2章 資源編

2.1. 非鉄金属資源概要

 我々が手にすることができる非鉄金属資源は地球誕生以来行ってきたある種製錬のような地球自身の活動の賜物であり、大事に扱わねばならない資源であることを忘れてはならない。

 では、現在の地表付近の金属資源がどのように形成されたのか考察するために、ごく簡単に地球の歴史を振り返ってみることとする。

 約46億年前の原始地球は太陽系の元となるちり(直径10km程度の隕石)が衝突を繰り返し巨大化したと考えられ、その衝突エネルギー、重力エネルギーおよび核エネルギー(不安定核種の壊変等)により原始地球は非常に高温の溶融状態であった。この時の元素組成は隕石等の研究から、鉄が最も多く、次いで酸素、ケイ素、マグネシウム、硫黄、ニッケル、カルシウム、アルミニウム、ナトリウム、クロム、マンガン、リン、コバルト、チタン、カリウムの15元素種で実に99.9%以上の構成比率を占めることが判っている。この溶融状態からゆっくりと冷える過程で、融点が高い元素種は早く固まり、その時の残存溶融物より比重の大きな元素種は地球の中心へ、比重の小さな元素種は地表方向へそれぞれ分化した。これが地球史上最初の製錬活動だが、鉄、コバルト、ニッケルのみならず、酸素や硫黄との化合があまり得意でない、周期律表第5、第6周期の重金属類(PGM類、金、タングステン、レニウム等)の大部分は地球中心の核付近に捉えられてしまった。ただ、この分化活動の中でも、溶融物中に残存していた融点の低い鉛や水銀等の親和性によって限られた量のこれら重金属類がマントルや地殻部に残ることができた(注:鉛や水銀の比重は高いが他の軽元素と化合物や混合物となって低比重状態であった)。また、融点が比較的高い銅や銀およびレアアース類は地球の平均密度(5.514)より比重は高いものの、硫黄や酸素の力を借りて低比重化しマントルや地殻に留まることができた。前出の15元素種についてクラーク数(地殻表層部に存在する元素の割合を質量%で示した数値)によって改めて算出すると98.6%となる。逆に考えれば、地球全体では0.1%未満の15元素種以外が、地表付近では1.4%までその存在比率を上げているのである。初期地球の活動によって地球規模では少量である銅、亜鉛、鉛等が地表付近に濃縮されたことはとても有意義だが、地球規模では多量に存在するニッケルやコバルトがマントル下部や地球中心付近に濃集してしまったことは現在の資源ニーズからすると少々残念である。

 プレートテクトニクスによってマントル構成物質が海底火山活動で海洋底地殻となり、プレート境界での衝突や沈み込みで生ずる造山運動や火成活動で地表付近に金属資源をもたらすことは今や常識化している。また、プレート運動以外でも、植物による酸素の供給による環境変化等が金属資源濃縮に重要な役割を果たしていることも理解されてきている。地球上の全ての構成元素はこのような長い時間と大きな空間での地球の営みによって現在の配置に至ったのである。資源調達の観点では全ての元素について、過去の詳細な変遷を全て説明する必要はないであろう。

 本資源編では、我々の生活に欠かせないベースメタル3鉱種(銅、亜鉛、鉛)とレアメタルに区分されているニッケルの計4鉱種について、最終形態である鉱床の成因(最終局面付近の変遷履歴)や鉱物種(最終的な元素保持形態)などについてできる限り最新の考え方に基づいて解説する。

2.1.1. 鉱床の分類

 鉱床の分類は成因別で区分するのが一般的で、その鉱床がどのようにして形成されたかに関連した地質現象や鉱石鉱物の濃集過程および生成機構を考慮して行なっている。ではまず地殻の動きと主な金属鉱床の生成エリア対比の模式断面図を図2-1-1-1に示す。

(出典)JOGMECよりMERIJ作成

図2-1-1-1 地殻の動きと主な金属鉱床生成エリアの模式断面図

 近年わかってきた注目ポイントは、海洋底プレートの沈み込み角度の違いが鉱床タイプの違いに影響を与えることで、従来の模式断面図のプレート沈み込み角度に修正を加えている。イメージしているのはマントル対流の上昇域を太平洋中央海嶺とし、右の沈み込み帯は南米大陸のチリ型、左に沈み込み帯は日本列島近傍にあるようなマリアナ型とした断面である。なお、この沈み込み角度の違いは、海洋底プレートの生成からの経過時間に伴うプレート自体の冷却による密度上昇の影響が大きく関与し、より冷えた海洋底プレートでは海洋底滞在時間が長く、海洋底堆積物の存在量が増すとともに堆積物の巻き込み方も違いがあり、根源マグマの質の違いに影響を与えることがわかってきている。この詳細については個別の鉱床説明の中で記載する。

 鉱床を成因別に分類すると、(1)火成鉱床、(2)堆積鉱床および(3)変成鉱床の3つに大別できる。また、火成鉱床は正マグマ鉱床、ペグマタイト鉱床、熱水性鉱床に、堆積鉱床は機械的堆積鉱床、風化残留鉱床、蒸発岩鉱床に、変成鉱床は接触変成鉱床、広域変成鉱床にそれぞれ中分類される。さらに、中分類の下に細分類があるが、まずは大分類と中分類までで全体感を確認しておくこととする。

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