メタ研通信 第3号 2022.07発行

主任研究員レポート紹介

 このコーナーでは日本メタル経済研究所の主任研究員が執筆した最近のレポートの概要を紹介いたします。ご興味がある方は担当者までご連絡ください。また、報告書本文は販売しております。

 なお今回は2020年度成果報告のうち、資源・資材学会2022年度春季大会で発表されたリバイス版をご紹介します。

3.金属資源開発を巡るリスクの高まりと非鉄金属産業の課題
(藤田 哲雄主任研究員)

 資源開発に伴うリスク、要求事項は、当然地域だけでなく時間の経過、世界の流れによっても変化する。近年では、資源開発のリスクは、カーボンニュートラルやSDGs 推進などの影響を受けて要求事項が変化し多様化してきている。その意味で、絶えず現在のリスクを正しく判断し対応することが重要であると考えられる。ここでは、非鉄金属の資源開発における地域特有の課題に焦点を当てて、対応策の一助とした。

 毎年1月に開催されるダボス会議で報告されるグローバルリスクの変遷を見ることによりグローバルリスクの変化を確認し、鉱業界共通、各地域特有のリスクを確認した。それぞれのリスクは、環境問題、先住民問題、政治課題とナショナリズム、パンデミックリスクと分類して、具体的な事例を挙げながら考察した。

 環境問題においては、鉱山開発における環境許認可を中心に考察を進め、環境許認可の元になる環境影響評価(EIA)に関して、その経緯と一般的なステップおよび項目について整理した。水資源問題と脱炭素化に関しては現在までの業界の動きを示した。鉱滓ダム(廃滓ダム)に関しては、鉱滓ダムの方式を説明すると共に、ブラジルの2件の鉱滓ダム決壊の事例を紹介した。

図1. Brumadinho市と鉱滓流出被害状況

図2. 鉱滓ダムの嵩上げ工法
図3. Juukan Gorge遺跡 破壊前後

 先住民問題では、国際連合、国連総会での議論、宣言を確認することによって、先住民の問題を確認した。先住民の問題は国や地域によって取り扱いも異なるために、地域別に検証した。オーストラリアの先住民、アボリジニの取り扱いの歴史を見た上で、Rio Tinto の鉄鉱石採掘の過程での遺跡破壊の事例を確認してその影響の大きさを見た。

 政治課題とナショナリズムとして、資源国政府あるいは現地資本が経営に参加する例としてインドネシア(Batu Hijau, Grasberg)を題材とした。インドネシアでは、未加工鉱石の禁輸措置がとられ、現地の海外資本の鉱山は、現地資本化や製錬所建設などの条件を受け入れて、鉱石輸出の許可を得て操業を継続している。Grasberg鉱山を保有するFreeport社は、インドネシア政府との間で権益の移管、精鉱の輸出許可取得、製錬所建設などを巡り厳しい交渉を繰り返しており、政府の鉱石禁輸措置により大きく翻弄されている。政策の影響だけでは無いが、生産量の変動が著しいのが特徴で、ストライキや抗議行動も過激化し、生産は不安定である。

 Covid-19 の鉱業に対する影響について、国別生産量への影響を挙げ影響度の違いを示した。コロナ禍にも関わらず、2020年の鉱山からの世界銅生産量は2019年と同水準を維持できたが、国により差は生じた。生産量1位のチリは1.0%減で生産はほぼ維持され、2位のペルーは緊急事態宣言による人・物の移動制限があり、12.5%減と大きな影響を受けた。

 また探鉱への影響をデータから解析した。2020年の非鉄金属、全体の探鉱予算は前年比11%減の87億ドルに減少した。これは企業の財政的な理由もあるが、コロナ禍による移動制限が大きく影響したと推測される。鉱種別では金銀は価格が堅調であったことから微増だが、銅や亜鉛対象の探鉱予算がそれぞれ24%、21%削減された。

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